日本の美味しい給食を支える現場力
2015年5月10日
日本の美味しい給食を支える現場力
ある病院のフェイスブックでひな祭りの日のための給食が写真入りで紹介された。献立のメインはちらし寿司とさわらの木の芽焼き。それらも実に美味しそうなのだが、フェイスブックで紹介されていたのは付け合わせのそら豆のはさみ揚げだった。
病院の栄養科のスタッフがこう紹介している。「一つひとつ、そら豆をさやから取り出し、薄皮を取り除いて、割って、間に海老のすり身を挟み込むという途方もない作業を越えて、とっても美味しく出来上がりました。患者さまにもとても好評でした」。
この給食を提供しているのは、ソシオークグループで給食サービス事業を営む葉隠勇進株式会社。学校や社員食堂、病院、養護施設などで給食を提供している会社だ。
給食は限られた予算の中で、美味しく、栄養価の高い食事を毎日提供しなければならない。中でも、病院や養護施設は1年365日、毎日3食を提供。しかも、病人や身体が不自由な人たち向けの食事なので、アレルギー、カロリー制限、食塩制限などに気を遣い、一人ひとりを意識したきめ細かい対応が不可欠だ。
ご飯だけでも普通食、五分粥、三分粥、ミキサー粥などに分かれ、おかずも細かく刻んだり、ゼリー状にしたソフト食にするなど同じメニューでも大変な数の組み合わせになる。それを毎回間違いなく提供しなければならない。現場にかかる負担は半端ではない。
そんな中で、手間暇のかかるそら豆のはさみ揚げを調理する。季節感ある美味しいものを食べてもらいたいという現場の思いがなければ、とてもできることではない。
かつて病院食は味気ないもの、まずいものと相場が決まっていた。しかし、この会社が提供している給食はそうした固定観念を払拭させる。日本が世界に誇るべき「おもてなし」のひとつである。 現場力は日本企業にとってかけがえのない競争力である。日本の現場が生み出す創意工夫、改善の数々は実に創造的であり、日本企業の競争力を根っこで支えている。日本を代表する企業であるトヨタ自動車は、まさに現場力で世界一の自動車メーカーへと登り詰めた。
現場力は中堅・中小企業にとってこそ生命線だ。現場が自律的に考え、知恵を出し、行動する。足元の競争力である現場力を磨くことなしに、中堅・中小企業が勝ち残ることは困難だ。
日本企業には現場力という底力が眠っている。その潜在的な力を覚醒させ、鍛え、表出させるのが経営者の最大の使命である。経営環境がどんなに変わろうとも、その原点を忘れてはならない。
※本原稿は 「SMBCマネジメント+(プラス)」2015年6月号 (5月10日発行)に掲載されたものです。
関連ページ:現場力とは