あしたばマインド

保育園インタビュー
「『現場力=人間力』 現場力に取り組むことは、人間力を高める」 明日葉保育園の園長が取り組む現場力推進と人財育成

ソシオークグループでは、「現場力」向上の取り組みを行っています。「現場力」とは、日々の業務をただこなしていくのではなく、自ら現場にある課題を見つけ、知恵と工夫により現場全員で課題を解決していく「改善」を繰り返すことです。

グループの中でも、現場力に熱心に取り組む明日葉保育園綱島園の仁平園長。改善活動を報告する「現場力レポート」は園で年間120枚以上を提出し、現場力の中で特に優秀な取り組みが表彰される「ソシオークアワード」では、前園の駒岡園を含めてグランプリや遠藤賞などを何度も受賞しています。

「現場力は人間力」と語る仁平園長。その言葉の意味や、これまでの現場力の取り組みついて伺いました。

保育士一人一人にリーダーを任せたことが自信につながった

――駒岡園でも綱島園でも、現場力を浸透させるため、先生たちの個性を重視したとお聞きしました。具体的にはどのように指導されたのでしょうか。

「現場力に取り組んでください」と伝えて、すぐに全員が現場力に取り組めるようにはなりません。普段から気付きや発言が多い先生は、比較的すぐにレポートを提出できます。

しかし、先生にも個性があり、言われたことはしっかり取り組めるけど、自分から気が付いて改善する力が弱い先生もいます。まずは気が付く力を育て、気が付いたことがあれば都度「それが現場力だよ!」と伝え自信を持ってもらうことから始めました。

また先生たち一人一人が自らの強みを活かしてリーダーになる「みんながリーダー」という取り組みをしました。リーダーといっても些細なことです。例えば、段ボールで工作するのが得意な先生は「段ボールリーダー」になります。段ボールで何かを作る機会があれば、必ずその先生に相談します。すると先生は、自ら段ボールの加工しやすい道具を調べ、用意してくれました。他にも、普段から明るい先生には、皆が暗い雰囲気になったらひたすら盛り上げ役に徹する「盛り上げリーダー」に、何事にも積極的で行動が早い先生には、何か問題が起きたらすぐに解決してもらう「速攻リーダー」になりました。

全員が自分の強みを考えリーダーになったことで、一人一人の個性が自信につながり、先生たちの行動が変わりました。大人しい性格だった先生も発言が多くなり、自ら色々なクラスに入って業務をまわしたり、積極的に現場力レポートを提出したりするようになりました。

昨年からは「現場力係」ができたので、現場力に楽しく取り組むことを目指して、新しいことにもチャレンジしています。6月には現場力係からの提案で、綱島園の中で、独自の現場力グランプリを実施しました。先生たちの投票制でグランプリを選出し、受賞した先生は、手作りのトロフィーとスペシャル特典がもらえます。

先生たちの名前の横にそれぞれのリーダー名が書かれた「みんながリーダー」の取り組みと段ボールで作った本棚

優しさと愛情が詰まった現場力に、嬉しくて泣きそうになった

――先生たちの自主性とアイデアがすごいですね。これまでソシオークアワードで受賞された現場力も、先生たちのアイデアから改善が生まれ、その取り組みはどんどん進化していましたね。

グランプリを受賞した駒岡園の「けがの傾向と対策」を提案した看護師の先生は、アイデアの天才でした。まず、園児たちのけがが起こった場所を見える化し、先生たちの注意を促す「ヒヤリハットマップ」を作成しました。しかしなかなかけがが減らず、けがの要因をデータ化して分析したり、表を使って報告したりしましたが、担任の先生たちには伝わりづらいものでした。

そして何度も改善を重ね試行錯誤しながらできあがったのが、けがが多い園児たちの相関図。園児の写真とともに、その子の過去のけがの内容や経緯(転倒、噛まれるなど)、性格(頑張り屋さん、お調子者さんなど)、ほかの子たちとの関係性がまとめられていました。その優しさと愛情がたくさん詰まったレポートを見て、嬉しくて泣きそうになりました。

子どもたちの関係をよく知る担任の先生たちからは「かわいい!分かる~!」と反響があり、みんなが楽しんでくれて分かりやすい、素晴らしいものができあがったと実感しました。

保育園は子どもを相手にしているので、なかなか数字やデータで改善を表すことが難しいですが、優しい想いが伝わる素敵な現場力を出せることに感動しました。ソシオークアワードでもグランプリを受賞し、私の駒岡園での最後の現場力だったので、素敵なプレゼントで送り出してもらったと思いました。

駒岡園の「ヒヤリハットマップ」

――レポートを見て、現場力は伝え方も大切だと実感しました。過去の先生たちの発表を見ると、資料の作り方や発表の仕方も素晴らしいなと感じるのですが、そのあたりの技術も指導されたのでしょうか?

基本は先生たちの意見や想いを重視しますが、資料や発表の最終確認をしてアドバイスはしますね。一応、エグゼクティブプロデューサーなので(笑)知らない人が見てもわかりやすく、何か影響を受けてくれるようなものを作りたいとは思っています。

あとは遊び心も大事。プレゼン資料の最後のページをPC画面風にして先生全員の顔写真を載せているのは、オンラインでつながっていることをイメージしています。こんな状況でも全員同じ気持ちだよ!応援してるよ!ってことを伝えたい。

日々の業務にプラスして現場力に取り組むことは負担になると思うので、私の園ではどれだけ楽しく取り組めるかを目標にしています。

現場力を通して自分で解決できる力を身に付けてほしい

――駒岡園でも綱島園でも、現場力を浸透させるにはさまざまな苦労があったと思います。それでも取り組み続けた原動力は?

苦労はありましたね。書く力を身に付けてほしいと思い、1人月1枚の現場力レポートの提出を指示したら、日常業務でも忙しいのに、なぜそんな面倒なことをさせるのか、と批判されました。でも職員会議や面談で、現場力の大切さについて熱く語り続けました。

なぜこんなに熱くなれるのかというと、現場力に取り組むことが園の先生たちの「人間力を高める」ことにつながると考えているからです。

現場力に取り組むファーストステップは、目に見える環境の改善です。「3M(ムリ・ムダ・ムラ)をなくす」などの取り組みから始め、改善によって業務がスムーズになることで、改善の大切さを実感する。取り組み続けることで改善・解決の力がついていきます。

次のステップは、目に見えない「人との関わり」です。園児や保護者様、同僚など、人と向き合う中では、必ず問題が生まれます。しかし改善・解決の力がついていれば、その問題を自分たちで乗り越えることができます。その力を私は「人間力」と呼んでいます。

どんな職場でも退職の理由の多くに挙げられるのは、人間関係だと思います。しかし、改善・解決の力がついていれば、人間関係で問題が起きても解決して乗り越えることができます。実際、現場力に取り組んで3年目を迎えた綱島園の先生たちは、人間関係で問題が起きた時、「まずは自分たちで話し合ってみます」と逃げずに向き合う行動が多くなりました。改善を積み重ねた成果だと思います。

自分たちで乗り越えることができれば、どこででも働くことができますよね。先生たちには今後も、現場力の取り組みを通して「人間力」を高めていってほしいと願っています。

――先生の熱い想いが伝わりました。現場力に対して、今後取り組んでいきたいことや目標はありますか。

まだまだ全員が同じ熱量で取り組めているわけではないので、そこが課題です。全員が同じ想いで楽しく取り組めるようにしていきたいです。

あとは、私と同じ熱量で現場力を伝えてくれる後継者を育てたいと思っています。熱い想いで伝えることは重要だと思うので、今年から始まったエバンジェリスト(現場力を伝える伝道師)の活動にも積極的に協力していきたいと思います。

現場力を浸透させるには時間がかかると思いますが、積み重ねが重要だと感じています。現場力に初めて取り組む先生も、まずはコピー用紙1枚分の改善を積み重ね、どんどん改善する力をつけていってほしいです。

綱島園が「ソシオークアワード」で表彰された時の表彰状
2年間で10回も表彰されている