SDGs×保育園インタビュー×保育園

「大人にSDGsを教える園児」を生み出す保育士の取り組みとは

~10か国以上の海外経験から「未来の子どもたちが安心して生きられる地球」のために、保育園でできること~

明日葉保育園大倉山園 原田綾乃先生

明日葉保育園大倉山園で、幼児リーダーを務める原田綾乃先生。原田先生はこれまで、保育園児に向けてSDGsのさまざまな取り組みを実施してきました。「水質汚染について考える水のろ過実験」や、「食品ロスを減らすコンポスト」、「男の子・女の子という性別の固定概念をなくすワーク」など…。

子どもたちは取り組みを通して環境問題やジェンダーについて主体的に考え、おうちで保護者の方にもSDGsを教えているそうです。そんな「大人にSDGsを教える園児」を生み出した、原田先生の取り組みについて伺いました。

■大倉山園のSDGsについての取材記事
・コンポストをはじめとした環境問題への取り組み(https://www.ashita-ba.jp/20210811/
・ジェンダーの取り組み(https://www.ashita-ba.jp/20210818-2/

10か国以上の海外経験からSDGsについて考え始めた

── 原田先生は、今保育士何年目ですか。

11年目ですね、途中休職して海外に行っていたので1年半のブランクがあります。

── 保育士を志したきっかけは。

子どもが好きっていうことと、今もバリバリ保育士として働いている母親の影響が大きいです。自分も母のように長く働きたいなって。保育士資格があれば日本中どこでも働けるし、子育てや、私のように海外に行って途中ブランクができても長く働けるので。

── どのようなきっかけで海外へ行かれたのですか。

保育士として丸5年働いてお金もたまってきた時に「そうだ、京都へ行こう」くらいの軽い気持ちでカナダへ行っちゃいました(笑)。ワーホリで語学学校に通って、飲食店とか留学エージェントとかで仕事して。あとは私が住まわせてもらったシェアハウスの大家さんの子どものベビーシッターとしても働かせてもらいました。

── その後もたくさん海外へ行かれたそうですね!

カナダ以外にも今まで10か国以上行きました。私の人生プランでは、今年2月に南極へ行く予定でした。南極の海でダイブしたり、「あしたばドア」(※)みたいに園児たちに向けてライブ中継したりしたかったんです。コロナで実現しませんでしたが…(泣)

(※)「あしたばドア」:明日葉保育園が実施している海外の保育園とのLIVE交流プログラム

── 先生がSDGsに興味を持ったのは海外での経験からですか。

例えばタイでは、大通りを歩くとすごい量の排気ガスで咳が止まらなくて、黒い鼻水が出ました。電気自動車の時代に、この排気量はどういうことって。ボリビアでは、平日の午前中なのに、小学生ぐらいの子があちこちで物売りをしていて。 この国の教育はどうなっているのって。
ケニアのスラム街では、園児たちと同じ年齢なのに、今日を生き延びることに必死な子たちがたくさんいて。いろんな国を見たことで、「未来の子どもたちが安心して生きられる地球ってなんだろう」って考え始めました。

日常の積み重ねから、SDGsへの意識が高い園児に

── 大倉山園の子どもたちは、いつからSDGsの取り組みを始めましたか。

私が幼児リーダーになった昨年の4月からです。それまでずっと0歳や1歳ばかり担当していて。大きい子も担当したいって希望したら、幼児リーダーに任命されました。それで「リーダーならではの保育をやろう!」と思ってSDGsの活動を始めました。

── SDGsって保育園児にとって難しくもあると思うのですが、子どもたちに興味を持ってもらえるように工夫していることはありますか。

遠足のようなイベントごとではなく、「あくまで日常のひとつとしてSDGsを捉える」ようにしています。年長さんって日々いろんなことに「なんでだろう?」って疑問が生まれたり、興味が湧いたりしているので、その声を拾うように意識していますね。

あとは今年度から「あしたばドア」が始まったことも大きかったです。いろんな国と交流することで、子どもたちの興味も広がってSDGsにもうまくつながっています。世界で起きたタイムリーなニュースとかも、子どもたちに共有するようにしています。

今年度の運動会が大雨による土砂災害警報で中止になった時、子どもたちは落ち込むだろうなあって思っていたのですが、みんな世界の災害のニュースなんかを知っていたので、災害の危険性を理解していて。おうちの周りのハザードマップを作って、「これはSDGsの11番『住み続けられるまちづくりを』なんだよ」って教えてくれる子もいました。

── すごい…。子どもたちって学んだことを結び付けて、自分で応用していけるのですね。

そうなんですよ!だから先生から「はい、今日はSDGsの何番を覚えるよ」とか言うのではなく、日常の積み重ねによって、子どもたち自身が気付けることが大切だと思っています。

クッキングの時間に子どもたちがさつま芋を切っていたんですが、すごく硬かったので女の子がなかなか切れずにいたんですね。それを見た男の子が「ああ、女の子だから力が弱いんだ」と言って。するとそれを聞いた他の男の子が、「それはジェンダー平等じゃないよ」って注意したんです。

注意された子も「あ、そうだった。ごめん、ごめん。」って素直に謝っていて、すごいなと思いました。自然に注意した子もすごいし、注意されてすぐに撤回できた子もすごい。なかなか大人でもできないことですからね。

これってきっと、SDGsが日常になっていることの積み重ねだなって。私が最初にSDGsに取り組もうと思った頃には想像できなかった姿です。

「カミングアウト」って言葉をなくしたい

── 原田先生がジェンダーに興味を持ったきっかけは、カナダでの経験だったと。

トロントで生活していると、同性同士のカップルがデートしているのをあちこちで見かけるんです。最初は驚いたんですが、ふと、「あれ、なんで日本では見ないんだろう」と疑問を持ち始めました。
日本人男性とカナダ人男性で同性婚したカップルと友だちになったんですが、日本人男性は「両親にカミングアウトしてないし、カナダで結婚していることも知らない」と言っていて。伝えないことは彼の選択だけど、第三者ながら少しもどかしい気持ちになりました。

── その経験が園児へのジェンダーの取り組みにつながった。

子どもへの説明の仕方をずっと考えているんです。例えば、仲良しの女の子が突然、「実は私、目玉焼きが好きなの」って言ったとしたらどう思うって。「女なのにおかしい」「女ならゆで卵でしょ」とはならないですよね。性的指向も同じで。みんな卵の好みみたいに人それぞれだよねって。

好きなものとか、好きなことをなんのためらいもなく言える世の中になって、「カミングアウト」って言葉がなくなったらいいなと思っているんです。

子どもからSDGsの話を聞いて、保護者も勉強を始めた

── SDGsの取り組みについて、保護者様からの反応もありましたか。

子どもたちはSDGsについて、家でも保護者の方に話しているみたいです。保護者様自身も「SDGsについて何も知らなかったけど、これだけ子どもが知っているなら」と勉強を始められた方もいます。その方が勉強して知った「おにぎりアクション」を園にお勧めいただいたので、その方のお子さんに「おにぎりの写真を1枚送ると、途上国で5人分の給食が届けられるんだよ」と園で説明してもらいました。

「おにぎりアクション」をSNSに投稿したところ、他の園にも活動が広がりました。SDGsがイベントではなく日常になっているからこそ、保護者の方や地域に派生し広がっていくんだなと実感しましたね。

── 4月から始めて1年足らずで、こんなに子どもたちの意識が高まったのはなぜでしょうか。

今の年長組の子たちは、2歳から5歳まで、ずっとディスカッションする機会を継続してきたんです。クリスマスとか、節分とか季節の行事では、どんなことをするか子どもたちに決めてもらいます。あと劇の発表会では、役決めも衣装も全部子どもたちに任せています。「衣装に使うからこのゴミ袋が欲しい」というリクエストがあったら、先生は「はい」って渡すだけ(笑)。

自分の意見を言うことと、人の意見を聞くことを学級会みたいな感じで積み重ねてきた。それで土壌ができていたから、こんなに早く浸透したのかもしれません。

── 新しい取り組みもどんどんされていますが、先生自身はSDGsの情報をどのようにキャッチアップされていますか。

昨年パラリンピックがあったので、視覚障がいのある選手がプレーする「ゴールボール」を子どもたちとやってみました。目隠ししながら、鈴の入ったボールを投げ合うんです。

それをきっかけに、トロントの保育園に指文字のアルファベット表が貼ってあったことを思い出して、うちの園でもあいうえお表の隣に、指文字を使った手話のあいうえお表を貼ってみました。子どもたちはパラリンピックの同時通訳で手話を見ていたので、「これ知っている!」って興味を持って。耳が聞こえない人にも自己紹介できるようにと、自分の名前を練習していました。

── 過去の経験をベースに、新しいことも取り入れられているのですね。

あとは、周りの人に「今保育園でこんなことやっているんだ」って言ってまわったり、取材された記事を送ったりして。そうしたら周りから、「これ好きそう」って教えてくれるようになりました。自分から発信すると、情報が集まってくるんだなと実感しています。

SDGsの取り組みを振り返る、世界に一つだけのアルバム

── 園児たちに向けて、今後の活動で考えられていることはありますか。

昨年4月からいろいろな活動をしてきた年長組の子たちが、3月に卒園するんです。なので私から、これまでの活動を何か形に残したいなと思い、一人一人に向けたアルバムを作りました。

その子がSDGsに取り組んでいる写真と一緒に、先生からのコメントとして、その子がその時に興味を持ったことや、成長したところを書いていきました。最終的には、1年の取り組みを称える表彰状と一緒に、このアルバムを渡したいなと思っています。

── その子だけのオリジナルのアルバムを渡すなんて、素敵ですね!

いろんな個性を持った子がいるので。この前SDGsの新しい絵本に私がブックカバーをかけていると、「ぼくSDGsのこと考えると興奮が止まんないんだよね!」って言いながら見に来た子がいて。「大丈夫。それ中毒症状だよ(笑)誰も取らないから落ち着いて読んでね」ってなだめました(笑)。

── そこまでとは(笑)。きっとSDGsを通していろんなことを知るのが楽しいのですね。

「あしたばドア」でケニアについて学んだ時に、ケニアの子たちは井戸で水を汲んで家まで運んでいることを知ったので、夏頃、園庭で水汲み体験をやってみたんです。6Lの水を用意したら、先ほどの子が「3Lは飲み水で、2Lはお風呂に使って、1Lはご飯に使うのかな」と計算していました。

そして冬頃に、同じ水汲み体験をしてみたところ、その子は「遠くにしか水場がないから大変なんだよね。近くにあればいいのに。近くに穴を掘って1Lずつ貯めとけばいいんじゃない」って考え始めたんです。要はダムを作るっていうことですよね。賢いなあと思って。そのうえ、「そこで魚とか育てられれば、魚も食べられるようになるし」とか言って食事のことまで考えていました(笑)。興味から始まって、継続することで考えが深まっていくんだなと思いました。

── 取り組みも継続することが大切なのですね。

コンポストは、年長組が年中組に引継ぎ始めています。年長組の子たちは、先生になりきっていますが、もう話が長くて(笑)。「コンポストとは」ってところから始まって、「白いカビが生えると、分解が始まったってことなんだよ。このカビが土を綺麗にしてくれるからね。怖がっちゃいけないよ。でも手にブツブツができちゃうから触っちゃだめだよ」って。

大人から説明するよりも、年長さんから説明した方がすごく響くと思うんです。年中組は、これまでお兄さんお姉さんたちがやってきたことも知っているし、今度は「自分たちがやるんだ」ってことでモチベーションが上がりますよね。

SDGsは子どもたちの成長ツール

── では最後に、保育園児の年齢でSDGsに取り組む意義を教えてください。

SDGsを特別視しているわけではないんですよね。子どもたちの成長を促すきっかけやツールの一つだと考えています。

保育所保育指針の幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として、「協同性」と「思考力」っていうのがあるんですね。例えばろ過の実験で、友だちと協力してろ過装置を作ることは、「協同性」を育むことです。「この水はどうすれば綺麗になるかな」と思って装置の中に綿を多めに入れてみたり、砂を少なめにしてみたり、いろいろ考えながら試行錯誤する。これは「思考力」を育むことになります。

「SDGsのことを考えると興奮が止まらないんだよ」と話していた子は、この年齢でそれだけ好きになれることを見つけたって強みですよね。その子は「あしたばドア」から海外の文字にも興味を持って。タイ語とかハングルのつくりが面白いんだ!って、図書館で大人が読むような「ハングルのつくりについて」という本を借りていました(笑)。

「あしたばドア」をきっかけに、調べる行為がすごく好きになった子もいて。次に交流する国がニュージーランドだと分かると、朝から晩までずっとニュージーランドについて調べています(笑)。

あとは、ディスカッションが上手になった子もいました。最初は「よく分からない」って言っていた子も、最近になって「私はこうだと思う」って積極的に意見を言えるようになりました。積み重ねによって自信が付いたんだと思います。子どもは大人が見ている以上の成長をしているんですね。

── みんなSDGsの活動を通じて、成長してきたんですね。

私たち大人は、やっぱり固定概念をなくせていない部分があることを実感しているので。この子たちが柔らかい脳みそでいろんな意見を言ってくれて、私自身が毎回教わっているんです。

子どもたちがSDGsをきっかけに、さまざまなことに対して多面的に捉えられる基盤を育み、成長して、数十年後には社会を担う立派な大人になっていってほしいなと思います。

それがソシオークグループのミッションでもある「社会と共生する樹でありたい」に繋がるんだと思います。これは考えてきました(笑)。