現場力×保育園

【現場力インタビュー】塩分が低くてもおいしい給食を実現!園児の喫食率アップにつながるプロジェクトとは

▲鴫原さん(左)と古川さん(右)

現場力作成者:株式会社あしたばマインド 明日葉保育園戸塚西口園 グループリーダー 鴫原(しぎはら) 優子(ゆうこ)さん/運営マネジメントチーム 古川(こがわ) いずみさん

ソシオークグループの「現場力」とは
「現場力」とは、フードサービスや子育て支援、運行管理・移動サービスなど現場ではたらくソシオークグループの社員が自ら課題や改善点を見つけ、知恵と工夫によりチームで改善を重ねていく取り組みです。自ら考え実践するナレッジワーカーとしての誇りの醸成や、個人の持続的成長につながるとともに、各現場の意欲向上や組織の活性化にもつながっています。

保育園給食は、かつお節や昆布などから丁寧に出汁を取って作られています。今回お話を伺った現場力は、出汁の品質を向上させることで、塩分量を上げずにおいしい給食をつくることに挑戦したプロジェクト。中心になったのは、調理員として戸塚西口園で調理を担当しながら、リーダーとして横浜エリアの調理員をサポートする鴫原さんと、全園の給食室の運営・マネジメントを担当する古川さんです。こどもたちの喫食率を上げ、食育にもつながった今回の取り組みについて、詳しくお話を伺いました。


――今回の現場力が誕生したきっかけについて教えていただけますでしょうか。

鴫原 優子さん(以下敬称略):きっかけは、明日葉保育園内での会議で「以前と比べて給食の味が落ちたのではないか」という意見が出たことでした。それを聞いたときは、残念に思うと同時に、減塩によって味が薄くなっているからだろうなと思いました。

2020年に厚生労働省が示す「食事摂取基準」が改訂され、食塩摂取量の目標値が下がりました。それを受け、保育園給食も減塩するようになったのです。そのような経緯があり、塩分量を変えることはできなかったので、塩分が低くても旨味を感じる給食を作るにはどうすればいいか考え始めました。

古川 いずみさん(以下敬称略):実際に園児の喫食率低下や、社員の喫食数の減少がみられる園もありました。調理の運営マネージャーとしては、これをきっかけに全園で改善に取り組み、明日葉保育園の給食の質を向上させたいと思いました。

鴫原:私も、自園できっかけとなった意見が出たわけではありませんが、グループリーダーとして全園で取り組みができたらと考えるようになりました。

以前、新入園児の保護者様から「明日葉保育園のグループ会社(ソシオフードサービス)が調理する社食がおいしかったので、明日葉保育園に入ったらこどももおいしい給食を食べられるだろうなと思って入園しました」と言われたことがあったんです。給食事業から始まった会社の保育園として、プライドを持ってその期待に応えたいと思いました。

古川:出汁については、喫食率の低下がみられる園の園長に詳しく話を聞いたところ、「離乳食を検食したときはおいしいんだよね」と言われ、ヒントを得ました。離乳食って塩分を高くできない分、出汁を含ませて旨味を作っているんですよね。

そこから、全園で出汁を見直してみようと「出汁の品質向上プロジェクト」が始まりました。

――プロジェクトはどのように進めたのでしょうか?

鴫原:まずは、基本的な出汁の取り方について改めて学び直しました。これまでは、調理員の経験から目分量でやっている所も多かったんです。そのため、かつお節の量や出汁を作る量、火加減なども調理員によってバラバラだったんですね。それを基本に立ち返り、しっかり計量して目安を作っていくという作業をしました。

そのようにして決まった出汁の取り方で、みそ汁、塩麴汁、コンソメスープ、鶏ガラスープを作って、2週間の間、給食メニューの一つとして提供しました。園長、保育の先生、こどもたちには出汁の取り方を変えたことを伝えて、感想やアドバイスをもらえるようにしました。


古川:2週間の提供後は、園長や保育の先生にアンケートを取って「出汁の旨味を感じることができたか」「こどもの喫食率は上がったか」などを聞き取りました。

――プロジェクトを通して、どのような改善効果がありましたか?

古川:アンケートでは86%の保育士から「出汁の旨味を感じることができた」という結果が得られました。また感想として、「こどもたちに出汁が変わった話を伝えると、何気なく食べていたみそ汁をよく見て、匂いを感じたり、味を確かめるように食べる姿があり、『おいしい』という声が普段よりも聞こえました。こどもたちの食への興味関心がおいしい給食につながると思いました」など、嬉しいものがたくさんありました。

鴫原:保育の先生の働きかけによって、こどもの喫食率は変わってきますね。今回のプロジェクトをきっかけに、担任の先生が「今日は魔法のスープだよ~」「給食の先生が一生懸命作ってくれたんだよ」などと、こどもたちに声をかけてくれたんです。こどもたちは、大好きな先生が言うことなので「じゃあ飲んでみようかな」と口に入れてくれるようになりました。

あと嬉しかったのは、保護者様から「家では食べないのに給食では食べるんですけど、どうやって作るんですか」と質問していただいたんです。園全体で給食の話が増えてきたことを実感しました。

――こどもたちへの食育にもつながったんですよね。

古川:そうなんです。全園でのプロジェクトが終わった後、各園で自主的に出汁を使った食育活動が始まりました。

鴫原:出汁に使った昆布をこどもたちに触ってもらったり、出汁の飲み比べをしたりと、さまざまな活動が見られましたね。

古川:ご家庭だと、本格的に出汁を取ることってなかなかできないと思うんです。保育園でかつお節や昆布に触ったり匂いを嗅いだりして、出汁は何から取られているのか体験してほしいという想いがありました。まだはっきり分からないかもしれませんが、知る機会を提供することが大切だと思っています。

鴫原:成長するにつれて忘れてしまうかもしれませんが、こどもの頃に食育を通じて体験したことが頭の片隅にでも残っていれば、食の時間が豊かになると思うんです。

私たちが食育を続けて、ゴールが見えることってないんですよね。それはずっと後のことだと思います。ただ、その子が大人になったときに、食に対して“幸せだな”と感じるようなきっかけを、今のうちからたくさん作ってあげたいなと思っているんです。

――最後に、現場力に取り組むにあたって大切にしていることがあれば教えてください。

鴫原:私たち調理員は、給食ができあがったら終わりではなく、こどもたちが給食を食べる様子まで見に行くようにしています。すると、「この子はまだあごの力が弱い時期だから、もう少し茹でて柔らかくすれば食べられるんじゃないか」とか、「キャベツとにんじんを混ぜたほうが食べられるかも」というように、こどもたち一人一人に対して、いろいろな気づきが生まれるんですよね。その気づきから改善を行うことが現場力につながると思っています。

古川:保育園の保育の一環として、給食や食育があると考えています。なので、保育園全体でお子さんを見ていくということは今後も大切にしていきたいですね。

鴫原:明日葉保育園の給食の質を向上させるプロジェクトは、今後も全園で続いていきます。今は第2弾として、魚の調理法を全園で見直し改善しています。

古川:調理の改善に終わりはありません。諦めずにどうすればより良くなるか考え続けることが大切だと思っています。